This page is intended for users in Germany. Go to the page for users in United States.

AIでファッションのトレンドサイクルを予測することは “難しい”

ファッション特化の人工知能を展開するベンチャーをやっていると、AIによるトレンド予測の実現を期待されることが少なくありません。

しかし、個人的には年単位のトレンド予測をAIに託すというのは無茶な話だと思っています。

AIの事業を展開しているからこそ、AIに「何ができるのか」と同じくらい「何ができないのか」が見えてきます。

今回はその「何ができないのか」にフォーカスします。

AIの現実的な活用方法や人とAIの役割分担について、より建設的なディスカッションをするためにも、できないことを明確にすることは大切だと考えています。


AIにトレンド予測を期待される背景

よく「ファッショントレンドは繰り替えされる」ということが言われます。オーバーサイズが流行ったり、タイトなシルエットが流行ったり、ビビッドな色が流行ったり、ナチュラルな色が流行ったり。

現に2018年はダッドスニーカー(お父さんが休日に履いているような、単体で見るとダサいデザインのスニーカー)が象徴するように、ストリートシーンを中心としたリバイバルブームが首をもたげました。


トレンドが繰り返される要因はいくつかあると言われています。

  • 消費者側がマンネリ化してきて飽きる
  • ブランド、小売、メディアなどが恣意的にトレンドを切り替えて過去のファッションアイテムを陳腐化し、買い替えを促し続ける結果、バリエーションに限りがあるため一周回ってしまう
  • かつての若者が20年後に社会人として立場のあるポジションに就いて、自分たちの謳歌したファッションをリバイバルするかたちで企画を展開していく

いずれももっともらしい理由ですし、実際にそれぞれが絡み合って結果的にトレンドのサイクルは生まれているのでしょう。

こういったサイクルの他、例えば景気が良くなったら派手な色が流行り、悪くなったら地味な色が流行るといった具合に、トレンドには法則性らしきものが見受けられるのは確かです。

このため「データを駆使したらトレンドは予測できるのではないか」という期待は尽きません。

予測できれば売れるものだけを作り、在庫を余すことなく大きな収益を残すことができます。

AIでトレンド予測をすること困難な理由 – データ量が足りない

現在世の中で「AI」と呼ばれているサービスや技術のほとんどは、大量のデータをインプットして、インプットしたデータを再現するような仕組みになっています。

画像認識で言うと、「これは犬です」「これは猫です」というラベルの付いた様々な画像データを元に学習して、AIは犬と猫とを見分けられるようになります。

このとき前提となってくるのが膨大なデータ量です。

著者が代表を務めているニューロープでも「ファッションアイテムを認識するAI」や「スタイリング提案するAI」を自社開発していますが、そのためにデータを数十万、数百万の単位でマンパワーによって作成しています。

トレンドを予測する上で最大のネックになるのがこのデータ量です。

仮に終戦後の70年分をトレンドサイクルの学習用データにするにしても、サンプルとしてはたったの70個しか存在しないことになります。サイクルで捉えると3-4回分といったところでしょうか。

たったこれだけのデータでAIが学習するということはリアリティに欠けた話です。


AIでトレンド予測をすること困難な理由 – 変数が多すぎる

天候、景気、戦争や天災が作り出す世の中のムード、ファッション業界の恣意性、人気のタレント、消費者の飽きなど、流行を左右する要素は無数にあります。

トレンドに影響を与えうる要素はできる限り定量的なデータにすることが望ましいですが、例えば安室奈美恵やきゃりーぱみゅぱみゅを定量化するというのは現実的な話ではありません。AIによる株価予測が実用化されていますが、これはチャートの上下を元にしたテクニカル分析的なアプローチで平常時には成果を挙げている一方で、リーマンショックや米中貿易戦争といったイレギュラーな事態にはめっぽう弱いという側面があります。安室奈美恵やきゃりーぱみゅぱみゅはファッション業界におけるリーマンショック的な存在と言えるでしょう。

また、ある商品をシーズンのスタート時点で作りすぎたために早期からディスカウントしつつ現場の店員さんが努力して売りきり、結果として市場に特定のアイテムが大量に流通するようなケースもなくはありません。こういった販売努力も定量化して変数に織り込むのが極めて難しく、AIの精度に影響を与えます。

一方で、現場でよく売れたために追加生産して投入したところ、その頃には市場が飽和してしまっていて、最終的にはプロパー消化率(定価で販売できた割合)が低くなり、更に大量に在庫が残ってしまうというようなケースもあります。こうなってくると何がトレンドに乗って何が乗らなかったという基準を定義するのがそもそも難しくなってきます。


そして色、柄、素材、丈感、フィットなのかフレアなのかといったシルエット、襟のかたちやワンポイントの装飾が形成するディティールなど、さまざまな要素の掛け合わせで最終的なプロダクトは成立しています。この組み合わせの数は途方もありません。これはアイテム単位で見ると、データ量を十分に確保するのが難しいということを意味します。100万個のデータがあっても、アイテムが10万種類あれば、アイテムあたりの平均データ数はわずか10個しかないというような話になります。

「20年前のリバイバルブームが来ること」を仮に予測できても、当時と同じ商品を作ったところで売れるはずがなく、そこには再来するものとしないものがまずあって、更にアレンジが加えられる必要があります。この詳細化の部分で更に大量のデータが必要となり、そのデータの源泉がそもそもないことは先述の通りです。

ちなみに「20年前のリバイバルブームが来ること」自体を予測できても、1年の誤差があったらまったく意味がありません。1か月ずれても致命的です。1年を52週で割ってマーチャンダイジング計画を立てる(いつ何をいくらでどのように売るのか考える)というアパレル業界に求められる厳密なタイムラインが事態を更にややこしくします。

マーケットが複雑であることを説明していたらキリがないほど複雑なのですが、ざっくり言うとインもアウトも多様すぎて、今のテクノロジーの延長線上に解決策を見込みにくいような状況にあるというわけです。

AIに期待できること

少なくとも著者は「2019年1月の時点で2020年の春のトレンドをAIで予見するようなこと」はまぁ難しいだろうと考えています。

そのことを白状した上で、じゃあAIは一体何の役に立つんだという現実的な話を最後にしていきます。


期中提案のサポート

シーズンの最初に投入する商品を見極める(=トレンドを予測する)ことは困難ですが、シーズンが始まって売上実績が出てくると、その売上実績を元にどういった特徴の商品が今期売れているのかということを画像解析と統計的な手法を組み合わせて分析することは可能です。(売上実績という切り口で見ると大量のデータが得やすいため、データ量の問題は解決されます。)

この分析結果を利用して、期中にどういったアイテムを追加で投入していくのかという意思決定をサポートすることは実用化の範疇にあります。

ただし多くのブランドは企画〜製品を市場に投入するまでに6か月程度のリードタイムを必要としており、この分析結果を十全に活用できるのはリードタイムを3-4週間程度にまで短縮しているようなSPA業態の中でもファストファッションなど一部の企業に限られます。(※リードタイムが長くても定番商品に関しては活用する余地があります。)


トレンド情報の定量化

画像解析の技術を用いて、SNS上に公開されている一般消費者のスナップを解析し、市場にどういったアイテムが流通しているのかを定量化することができます。

トレンドがあると言っても息の長い定番商品が占める割合も多く(例えば白Tシャツは多寡はあるにしても毎年それなりに売れる)、マーチャンダイザーやデザイナーは自社の売上実績も参考にしながらマーチャンダイジング計画を立てていきます。

今年はこれが売れたから来年もこれくらい在庫を積もうとか、あるいはさすがに市場が飽和していそうだからちょっと減らそうとか、実績と感覚とを組み合わせてプランニングしていく。

このアプローチでは「自社では販売していなかったものの、市場ではよく売れていたアイテム」を見落としてしまうようなケースが考えられますが、SNSというあらゆるブランドの総体から成っているデータを分析することで、補完することができます。

人とAIの役割分担が鍵

上記に挙げた例はいずれもデータを作るところにフォーカスしていて、マーチャンダイザーやデザイナーなど、人とのコラボレーションを前提としています。


人が得意なのは様々な要素がごちゃごちゃとある中でも、データが十分になくとも、筋の通ったストーリーのある仮説を立てられることです。この仮説はもちろんはずれることもあるものの、AIで無理やり出力した結果とは比較するべくもありません。

AIは万能からはほど遠いところにあります。ただし得意領域に限って言えば活用しない手はないくらいパワフルなソリューションを提供できるようなところまできています。

できること、できないことを明確にした上で、ファッション業界サイドとテック業界サイドが「それならこういうことがやりたい!」というアイデアを出し合い筋の良いPoCを重ねていけば、業界躍進のスピードは一段と増すものと信じて著者は今日も全力で事業に取り組んでいます!

株式会社ニューロープ's job postings
2 Likes
2 Likes

Weekly ranking

Show other rankings
If this story triggered your interest, go ahead and visit them to learn more