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Wantedly Journal | 仕事でココロオドルってなんだろう?

Company

人手不足でも跡取りがいなくても“稼げる仕事”に。自動収穫ロボットが切り拓く、近未来の農業の姿。

inaho株式会社 代表 菱木豊さんの、“現場力の源泉“を探る(後篇)

2019/03/15

野菜を自動収穫する汎用型ロボットの開発および収穫サービスを手がけるinaho株式会社(以下、inaho)の共同代表・菱木豊(ひしきゆたか)さん。前篇では今の仕事につながる自身のキャリア、そしてinahoのこれまでを語ってくれました。

後篇では、inahoの自動収穫ロボットが、単に農業の人手不足を解消し農業経営を変えるだけではなく、都市で働く私たちが農業に参入できるようになる…。そんな“近未来の第1次産業”の姿が浮かび上がってきました。

「先憂後楽」で動いて、不安を先につぶしておく

農業とはまったく縁のない職歴だった菱木さんが、全国各地の農家とコネクションを築けたのには、彼のフットワークの軽さがありました。多種多様な農場に適応するロボットを作るためにも、農家のニーズを的確に知るためにも、数多の現場に足を運ばなければならないと考えた菱木さん。“未知の領域”をアグレッシブに開拓したときを振り返りながら、口をついたのは「先憂後楽」という四字熟語でした。

──農家とのコネクションはどのように作っていったのですか?

「農家の知り合いなんてほとんどいなかったから、最初は、ホームページを持つ農家に問い合わせました。『農家 アスパラガス 福岡』みたいに検索して、Facebookページから連絡したり。ただ、ネットで連絡先がわかる先なんてごくわずかで、すぐに頭数が尽きました(笑)。次に地方紙を舐めるように調べ、取材されている農家の連絡先を見つけて、新聞社に連絡して紹介してもらったり、ハローワークへ行って農家の求人情報をチェックして電話をかけたりしました。そうして面と向かって話をさせてもらうと、僕らがやろうとしている収穫の自動化は、農家にとっても課題感がすごく強い話で、興味を持ってくれる方が多かったです」

──それが、佐賀県鹿島市にオフィスを構えたきっかけになる出会いにもつながった…

「佐賀への進出は、武雄市の山口仁司さんというキュウリ栽培の“名人“にお声がけいただいたのが契機でした。山口さんは同じ面積の農地から倍の量を収穫するという凄腕で、日本全国でも名が知られている方なんです。そもそも佐賀県のキュウリ農家は、反収※が多いことで知られていますが、なかでも山口さんの手がける畑は反収が段違いで、収穫ロボットにはハードな環境なんです。この環境での収穫作業に耐えうるロボットが作れれば、どの地域でも安心して使ってもらえる製品になるはずだと考えました」

※農地一反(約10アール)あたりの収穫高

──農家の方からの「ちゃんと収穫できるか」「安心して使い続けられるか」という不安を先に解消するわけですね。

「僕らの自動収穫ロボットは、収穫率の目標値を90%に設定しています。反収20トンの農家から性能を問われたときに『反収40トンの農地で90%収穫できる実績がある』と言えれば、相手の不安を先に解消できますよね。のちの営業活動を有利にするための『先憂後楽』です。後で楽をしたいので、先に苦労しておこうと」

すべての第1次産業で「AI×ロボット」が必要になる

現在、inahoで開発中のキュウリとアスパラガスの自動収穫ロボットは、まもなく新たなプロトタイプが完成予定。なるべく多くの農場や作物に対応できる汎用性を高めるため、機体の幅を7センチ狭くしたり、ネットワークに接続した状態で処理が進められるような機能実装などが急ピッチで進められています。2019年5月の正式リリースを目指す菱木さんの視線は、農業のみならず「すべての第1次産業」を見据えていました。

──将来的には、キュウリ・アスパラガス以外の作物への展開も考えていますか。

「農業にとどまらず、すべての第1次産業向けに広げたいです。現場と触れて、その土地の人や事業者とたくさん話をしてみると、漁業や林業も『課題の“宝庫”』だと気づきましたが、誰もそこへちゃんとアプローチができてないのが現状です。実際に漁業関係の会社さんからは相談が来ています。僕はそもそも、エンジニアではありませんが、AIを自ら学んだインプットがあるからこそ、課題と出会うことで解決の道筋が見えたりするわけです。具体的に手を動かせなかったとしても『何ができるのか』を常に知っておくことは、非常に重要だなと思っています。最新テクノロジーの情報などを踏まえて、『できること』をインプットし続けるのは好きだし、やり続けています」

──テクノロジーの進化で「やれること」も日々増えていますからね。

「数年前にはできなかったことがたくさんありますね。例えば、直射日光の下で収穫に適した作物を正確に認識するためには、外乱光に強いセンサーを採用する必要がありました。2年前に使ったセンサーは20万円ほどしましたが、今は4万円で手に入ります。RaaSモデルは私たちで初期投資のハード代を負担するわけですから、このインパクトは非常に大きいです。テクノロジーの進化以外に、資金調達の環境も変わりました。僕は『3年で50億は最低でも集めたい』と事業を始めましたが、当時は『無理に決まっている』とよくいわれました。今では同じジャンルで数十億円規模の大型調達は珍しくないです」

──ある意味、今から始めたのでは、もう遅いわけですね。

「『AIが来る!』と感じたのが5年ほど前で、その後にディープラーニングが話題になったのが2年くらい前でしょうか? 潮目が大きく変化する、そのちょっと早めのところで始められたのは、正直良かったと思っています」

遠くない未来に「地方で農業」がより良い選択肢に挙がる

日本有数のスタートアップカンファレンス、ICCサミット「スタートアップ・カタパルト」で見事に優勝を勝ち取ったinaho。受賞理由は「自動野菜収穫で農業にコスト革命をもたらす」という点でしたが、菱木さんとinahoが作る未来はコストの問題解決だけにとどまりません。担い手不足の農業に“人が集まる”仕組み作りをも目指しています。

──inahoのロボットは農業の経営という点で、どのようなインパクトがあると考えますか?

「農家はみんな経営者ですから、売り上げを伸ばしたいんです。そのために新たにビニールハウスを建てるといった設備投資が必要になると、何年で回収するかと算段を立てます。そこで、面積を2倍にしたときには、雇う人も2倍にしなきゃいけない……と考えた瞬間に尻込みするわけです。必要な時給も上がり、地方は人も減り続け、年々人が採用できなくなっているのです。それで課題がスタックするならば、人がやっている単純作業をロボットや機械で行えれば、不安なくインフラ、つまり設備に投資できるはずです」

──人手不足を補ったその先のビジョンも提示できると。

「農家が本来注力すべき、クリエイティブな部分にも向き合えるようになります。RaaSモデルは農家の売り上げが伸びるほど、僕らの売り上げも伸びますから、基本的にお互いをパートナーという考えで捉えられています。『一緒に伸びていこう!』という同じ目標を共有した、対等な関係でいられるわけです」

──単純にロボットを売って終わり、という関係ではないと。使ってからが関係性の始まりになるわけですね。

「それに『地方で農業をする方が儲かる』となったら面白いなと思っていて。むしろ、そういう流れを作っていきたいんですよね。土地が余っている地方はポテンシャルがあり、そこでお金を稼いで、みんなで遊んで飲もうぜ! みたいな提案もしたりしています(笑)。生活する環境としては良い面があっても、地方には仕事がないからみんな行けないんですよね。でも、東京で満員電車や高い家賃に耐えながら年収400~500万円という選択よりも、地方で農業をするともっと稼げて、しかも生活環境もいいらしいぞ、となれば、そちらを選ぶ十分な理由になるはずです」

──ロボットのおかげで、農業が“経験ゼロの人も選択できる仕事”になると。

「そのトレンドは、これから本当に出てくると思っています。なぜかというと、これまで農業を始めるには土地だけではなく、ビニールハウスや農機といったインフラが必要でした。農業従事者のなり手が減ると、設備はどんどん余ってくるんです。そうすると、新しく始める人はそれを借りるだけでいい。今後10年で農家の数は約半分になるともいわれています。辞めるにしても、設備を放置するわけにいきませんから」

──初期投資額が下がるわけですね。もう始めている人も?

「新規就農して4年目になる知り合いがいるのですが、建てるだけで何千万円とするビニールハウスを、土地含めて年間20万円で借りています。それで700~800万円の利益をあげているんです。すごく夢がある話じゃないですか? 貸す側にとっても、まさしくビルオーナーの家賃収入のように定期収入になります。農家から土地と設備を借り、収穫のような単純作業はロボットに任せて収益化に注力するという、新しいスタイルの農家を増やしたいです」

「農業だけでも、やりたいこと、いろいろあるんですよ」。人なつこい笑顔で、その先の農業の姿を語る菱木さん。オフィスの庭先ある畑には、1本のアスパラガスがスクッと立ち上がっていました(写真は前篇で)。アスパラガスの旬は春の半ば。一足早く成長したその姿は、いち早く「AI×ロボット×農業」の分野を先駆ける菱木さんを象徴しているかのようでした。

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Interviewee Profiles

菱木 豊
inaho株式会社 代表取締役CEO
鎌倉生まれ、鎌倉育ちの鎌倉っ子。 不動産投資コンサルタント会社に入社し、4年後に独立。2014年に株式会社omoroを大山らと設立し、不動産系Webサービスを開発運営後に売却。AI導入のコンサルティングや、InstagramのマーケティングWebサービスを開発運営。地域活動のカマコンの運営。 最新テクノロジーに関するTheWave塾の事務局等、幅広い分野で活動
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